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藤井聡太八冠の将棋愛~王座戦は2度の大逆転!

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「藤井聡太・八冠制覇!」。2023年10月11日、このニュースが日本中を駆け巡りました。今回の将棋王座戦、あまりにも見どころと「山場」が多い将棋だったのでファンにとってはたまらないタイトル戦でした。
今日は「八冠」にこだわって、棋戦の歴史にもちょっぴり触れたいと思います

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藤井聡太八冠の将棋に感動!読みと愛の深さ!

この日の将棋タイトル戦に興味を寄せたのは、将棋の実力があるアマチュアファンだけではありませんでした。将棋をご存じない巷のおじちゃんおばちゃんまで巻き込んだ竜巻のように・・・。

とにかく新聞やテレビが掲げたキーワードに「八冠」の文字が躍動していました。
でも八冠の中身をよくご存じでない方もチラホラと。

今回行われた「王座戦」は、将棋を愛する人たちや将棋関係者にとって一番うれしいことだったのかもしれません。あるメディアは「経済効果は37億円以上」なんて試算を出していました。
筆者もいちファンとして注目していました。

王座戦の第3戦で見た「藤井聡太の将棋愛」

八冠達成の「大どんでん返し」はこの後の第4局で。
まず話は9月27の王座戦第3局です。
(以下肩書はその時のもの)

将棋の指しかけ図
⇧ 歴史に残る重大局面

将棋の終盤に至っての形勢は圧倒的に永瀬王座でした。しかし事件が起きたのは藤井七冠が指した2一飛車(王手)。
その手に対して持ち時間をすべて使い果たし、永瀬王座が指した手がなんと「4一飛車」でした!(右図)

普段なら多分指さないでしょうね、この手は…。特別に注目度が大きいタイトル戦、この番勝負に勝てば「名誉王座」の称号と賞金(100万円)が手に入り、藤井聡太の八冠を阻止した記録は永遠に残るでしょう。

さらに局面は自分が有利、ここまで来て落とすわけにはいかない・・・などなど、いろいろな条件が積み重なっていました。だからこそやってしまった「大ポカ」でした。
むしろ将棋習い始めの方なら「3一歩」とフツーに指したかもしれません。

永瀬王座は局後に声を絞り出すように「エアポケットに入ってしまった」と語りました。

相手の大悪手直後に見せた藤井挑戦者の反応!(第3戦)

将棋はひっくり返ってしまったようです。筆者が感動したのはその数分後です。

挑戦者の藤井七冠はその手が悪手だとすぐに気づいたはずです。するとはたから見ても(緊張感が切れたような)ぐた~っと体の力が抜けていったように見えました。

将棋王座戦
⇧ 相手の失着に気づいた瞬間。

そして右の画像のように背中が丸くなり、首をガックリ下げて見た目にはどちらが勝ちかどちらが敗者じゃわからない光景です。
でも藤井挑戦者はこの時点で相手の信じられない失着で勝ちを拾ったことを確認していたはずです。

(筆者の勝手な)想像ですが「今回は悪い将棋を指してしまった。自分が不出来だったから相手にこんな大ポカを指させてしまったのだ。
対局相手の悪手を指すような流れにしてしまったのは自分の序盤の指し方が引き金だから責任がゼロではないのかも。
応援してくださるたくさんの方々に申し訳ない」。そう考えていたのかもしれません。

その日その場所にあったのは藤井聡太という人物の『将棋愛』だったような気がしています。

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第4戦、藤井聡太の評価値1%からの勝利

八冠という偉業達成は、全国津々浦々まで届くほどメディアが大々的に取り上げてくれました。しかしこれほど盛り上がったのは、今回の決着があまりにも劇的な大逆転だったという背景も手伝っています。

将棋4一飛車
近年はAIの形勢判断がありよくわかる。

最近の将棋中継、NHKの早指し戦、銀河戦、ABEMAに至るまで、AIが明確に形勢を示しますからね。たしかにこれなら将棋にお詳しくない方でも十分楽しめます。
その将棋ソフト(AI)、第4戦の最終盤で示された藤井竜王・名人の勝率はわずか1%!

アマの将棋愛好家の中には、プロでもそんな大逆転されるポカを指すなんて!とビックリするかもしれませんね。でもそれが将棋なんです。いやむしろ天才だからこそなんでしょうね。

プロの将棋は最後に相手が頭を下げる(投了)するまでは、まさに”板子一枚”、小舟で海を行くようなもの、何が起こるかわかりません。下は断崖絶壁の細い道を歩くほどのプレッシャーがあって並みの神経ではいられないでしょう。

どんでん返しを起こした「運命の一手」

王座戦五番勝負の第4局は当時王座の永瀬拓矢九段が大優勢のまま終盤を迎えましたが、両者の持ち時間はすべて消化してついに1分将棋でした。122手目、藤井八冠が「5五銀」と打ったところで「SHOGI AI」が示した数字は永瀬九段が勝率99%、藤井竜王・名人が1%。

99%ということはほとんど詰んでいる、または必死(将棋用語で受けがない状態)になっているという意味です。この将棋はすでに終わっていました。しかし多くのプロ棋士が腰を抜かした”運命の一手”が飛び出したのです。

藤井挑戦者の指した「5五銀」に対し永瀬九段は「4二金」と平凡に指せば勝っていました。しかし彼が指した手は「5三馬」!。この手を予想したプロ棋士はほぼゼロ、AIだって機械ごと倒れちゃうんじゃないかというくらいの大ポカでした。

将棋とゴルフの奇妙な共通点は「やり直しが利かないこと」です。指した永瀬王座はそれがどんな意味かすぐに気づいたようでした。「アッ!」と声さえ出しませんでしたが・・・。

将棋は残酷ですね、自分のミスショットに対し相手が指すまでは手も足も出せません。永瀬九段は何度も頭をかきむしり、頭をたたいて天を仰ぎました。

形勢は一気に逆転。永瀬王座に形勢を覆す手段はありませんでした。釣り上げて針を外すだけだった大きな魚(名誉王座)は海に戻っていきました。

永瀬元王座も藤井八冠にとっても生涯忘れない将棋

王座戦が終わり、テレビに「藤井聡太、八冠制覇」の臨時ニュースが流れました。NHK以外の民放すべてで報じたそうです。出身地の「瀬戸市」はもうお祭り騒ぎだったようですね。当然でしょう、地元の誇りですからね。
こういう明るいニュースってうれしいじゃありませんか、最近暗い話が多いですからね。

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この棋戦のタイトルを奪取するまでは藤井七冠と呼ばれていました。その内容は竜王、名人、王位、叡王、棋王、王将、棋聖です。

将棋界でタイトル独占(全冠制覇)は史上4人目(ほかは升田幸三、大山康晴、羽生善治)になります。藤井七冠にとって最後に残ったタイトルは王座戦でした。

王座戦~ひと口メモ

1953年に一般棋戦として創設されました。スポンサーは日本経済新聞で協賛が日本将棋連盟。
この年は囲碁の「王座戦」も同時開催となっています。

「王座戦」と棋戦名を命名した棋士は東海の鬼と呼ばれた花村元司九段でした。将棋界の三大異才を「坂田三吉、升田幸三、花村元司」と呼ばれることもあります。

1983年はこの棋戦の31期目にあたりましたが、この時からタイトル戦に格上げされました。前身は「世代別対抗将棋戦」。規定では五番勝負で3勝先勝で王座のタイトル称号をゲットします。

かずお
かずお

花村元司さんは将棋のアマ時代賭け将棋をしていたいわゆる真剣師です。升田幸三プロと徹夜で指して実力が認められ、史上初の編入試験を受けた人なんだ。今になって思えばプロ将棋の世界とは関係していなかったのに棋士になれたなんてすごい!

将棋の一番新しいタイトル戦=叡王戦

さきほど将棋のタイトルに触れたので、一番新しい叡王戦(えいおうせん)のことも触れておきます。この棋戦のスポンサーは”不二家”で協賛が日本将棋連盟です。

将棋電王戦
⇧ 過去にはAIと人間の棋戦が。

2015年にドワンゴが主催した「電王戦」に区切りがついたことで2017年の第3期から叡王戦に昇格しました。もともとは将棋コンピューターとプロ棋士が戦う変変わった戦でした。

将棋の棋戦が8つに増えてから全冠独占は藤井竜王・名人が初のことです。それまでは七冠でしたがその七冠を制覇したのが羽生善治さんで今の九段です。羽生さんの全盛期には七つしか棋戦がありませんでしたから、その功績たるやすごいものがあります。

形勢は一気に逆転。永瀬王座に形勢を覆す手段はありませんでした。釣り上げて針を外すだけだった大きな魚(名誉王座)は海に帰ってしまったのです。

偉業を成し遂げた藤井八冠のまとめ

この歴史的な将棋の大盤解説を務めた深浦九段はこう話しています。

永瀬王座はあの悪手をさしてからこう考えたでしょう。
「キツ~イ失着になってしまった。将棋は勝ちだと思った瞬間に隙が生まれる」と。
藤井挑戦者からいつどこで逆転狙いの手が出てくるのか、神経をすり減らしたのだろう。それだけ藤井さんが怖い存在だったので無言のプレッシャーがあったのかもしれない。
逆に言えば藤井さんには見えない影響力があるのだと思う」と話していました。

森下卓九段は「これは『千慮の一失』といえる信じられないミスで大逆転が起きた」と振り返りました。

読みを誤った原因は「いちばん大きな理由は持ち時間だ。『1分将棋』になっていたからだと思う。初手からの疲労が積み重なっていてそれがここで出たのか。負の相乗効果で悪夢のような大逆転負けになったのではないか」と分析しました。

将棋には信じられない勝ちと負けがあります。「将棋は逆転のゲーム」といわれる所以。いろいろな要素が絡まって起きる現象です。だから将棋は不可解だといわれるわけです。

もう2か月ほど前になりますが、30年前の将棋アーカイブを銀河テレビで放映していました。米長邦雄九段対大内延行八段戦したね。


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最終の一手を見て米長さんが投了してカタがつきましたが、数秒後に「私の負けでしたね」と大内さん。
米長さんがビックリして盤面をよく見ると、最後の大内さんの指した王手は遠くにいる米長さんの馬(角成)道だったのです。

米長さんは隅っこに馬がいたのを見逃してしまったのでした。将棋は怖いね。

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